ひとりの生徒が、ある講師の机上に書き置きを残して帰った。内容は、だいたいこんな感じだ。
勉強用に、プリントをもう1枚いただけませんか?
書き置きを見た講師は、少し困っていた。というのは、ひとりの生徒にだけプリントをあげると、不平等になるかもしれないからだ。もちろん、生徒たち全員にプリントをあげるとなると、印刷をし直さねばならない。
その講師は考えた末、書き置きを残した生徒の担任のところに行って、「『残部がないのであげられない』と伝えてもらえませんか」と頼んだ。すると、担任はこう言ったらしい。
生徒の学習の機会を奪うことになるので、プリントをあげてください。
結局、そう言われた講師はため息をつきながら、生徒たち全員に1枚ずつ配るためにプリントを増刷していた。
私から言わせれば、意味不明な話だ。私は実際にそのプリントを見せてもらったが、一問一答の問題と解答欄があるだけのものだった。このプリント、もう1枚ないと勉強できないのだろうか?
もうひとつ、意味不明だと思ったことがある。以前、私が高3の問題演習の授業を担当していたとき、私はどうしても生徒に配付したいプリントがあった。その学年で講義のほうを担当していたのが上記の「学習の機会を奪う」発言をした先生なのだが・・・その先生のプリントが恐ろしいほど「ぐっちゃぐちゃ」の見にくいプリントだったのである。しかも、誤字・脱字のオンパレード。重要な専門用語まで、あちこち間違っていた。あまりに見にくいプリントなので、生徒たちはそのプリントをまともに読み込んでおらず、ほとんど知識が整理されていなかった。そこで、私は簡潔に整理したプリントを生徒に配りたいと思ったのだ。しかし、勝手に配付するのは悪いと思って、私は上記の先生に「私のプリント、1部ずつ生徒に渡したいんですけど」と告げた。すると、その先生は即座に言った。
やめてもらっていいですか?
というわけで、私は簡潔に整理したプリントを配付することができず、悔しい思いをした。私のプリントを欲しがっていた生徒もいたのだが、プリントをあげることができず、申しわけなかったのを覚えている。あの「やめてもらっていいですか?」発言は、十分に生徒の学習の機会を奪っただろう。
生徒の学習の機会をガッツリ奪った人間が、「学習の機会を奪うことになるので、プリントをあげて」と言うナゾ・・・実に不可解である。
< 完 >
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